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山川機長のフライトログブック 2020

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2024/04/08

皆既日食!

去年のいつごろだったか、アメリカを斜めに横断する形で皆既日食が見れるとの情報を得た。ピッツバーグから北に車で2時間程度のエリーまで行けば皆既日食が見れるとのこと。ちなみに、日本語では「エリー湖」と訳すが、発音は「イーリー」である。これも発音に即したカタカナにしておけば通じるのに。「ストール」を「失速」と訳したやつと、「イーリー」を「エリー」と日本語にしたやつらの罪は重い。今からでも正しく矯正するための抵抗で、以後イーリーと書く。イーリーには空港があるから飛行機で行けば楽だ。昔フライトスクールから飛行機を借りていたころは、直前になるまで飛行機を予約できなかったが、今のBeaver Valley Flying Clubではどれだけ先でも予約できる。僕は早速飛行機を予約してしまった。

ピッツバーグには、ビールを醸造してその場で飲めるBreweryがたくさんある。全米でも多い方なのではないだろうか。そして、在住日本人の中で、月に一度集まって醸造所を巡って酒を飲むビール部なるグループがある。その部長が飛行機で行くなら一緒に乗せてほしい、とのことだった。たまたまその時その場にいたもう一名一緒に行きたいとのことで、その二人を乗せていくことにした。本当は我が妻ともう一人乗せて行こうと思っていたのだが、我が妻はどうも乗り気ではない。

当日午前10時ピッツバーグを出て空港に向かう。11時には空港に着いて、12時にはイーリー空港に着陸、いろいろセットアップして3時10分ごろから皆既日食の予定だった。

しかし、その日が近づいて、ビール部部長に確認したところ、やっぱりフィアンセと別の友達と車で見に行くことにしたとのこと。ひとつ空席が出来たので、我が妻に行かないか聞いてみるが、午前中日本語を教えているのだが日食で休講はできないとのこと。ちなみに僕はカーネギー・メロンのプログラミングの授業は日食のため休講にしちゃった。我がボスも休講にしてたし。それで、同じアパートに住む別の友達の娘さんを乗せていくことになった。

ところが、前日、その娘さんバレーの練習が入ったので行けなくなったとのこと。みんな真面目過ぎだ!と、思ったがまた空席ができた。我が妻にやっぱり行かないか聞いたが今更休講にできないとのこと。だが、周囲の盛り上がりを見てやや行きたくなっていたらしい我が妻は、10時50分に終わってそこからすぐ空港に向かうなら行くとのこと。十分な余裕を見てるから大丈夫だ。空席は我が妻を乗せていくことにした。

しかし!週間予報ではほぼ快晴のはずだった天気予報が、当日が近づくにつれて曇りの予報に変わってしまった。予報サイトによると、イーリーで皆既日食を見るのはほぼ絶望的のようだった。わざわざ飛行機操縦して皆既日食見に行くなんて自分ぐらいだろう、と、思っていたパイロットは全米に山のようにいたらしく、一か月ほど前、連邦航空局が当日は大混雑が予想されるから注意しろ、と通達をだしたほど。クリーブランドのバーク・レイクフロント空港に電話してみたが既に予約でいっぱいで受け入れ不可能とのこと。航空マップと皆既日食マップを見比べながら、皆既日食を見ることができて、まだ受け入れ可能な空港が無いか探す。そして、Findlay (KFDY)空港に電話してみたところ、まだ受け入れ可能とのこと!ただ、1時間半の距離なのだが、ここに行くことにした。10時50分にピッツバーグを出ると、空港到着は11時50分ごろになる。そこから1時間半飛行すると1時20分。3時10分ごろの皆既日食には十分間に合う。

それでも、簡単には進まない。Findlayに予約したものの、当日の天気が悪い。Beaver County Airport離陸時雨が降りそうなのは、別に計器飛行で飛び上がれば問題ない。だが、FAAからの通達で、計器飛行のクリアランスが出るまでにラグがあるかもしれないとの注意があった。長く待たされたらどうしよう?また、現地の予報が23012G20。Findlayは滑走路25-07をパーキングに使うとのことなので、使用滑走路は36-18。磁方位180。真南だ。風は230度の方向なのだが、これは真方位なので、磁方位だと240度ぐらい。12ノットならどうということはないのだが、問題は最大風速G20。20ノット。そもそも、自分は風向きがどっちでも19kt以上なら飛ばないことにしている。横風のセルフ上限は15ノットだ。滑走路に対して60度右から20ノットの風では、20*sin(60deg)=17.3ノット。そもそも横風のセルフ上限を超えてしまう。 あきらめて車で行くか、と、思ったが、去年、ピッツバーグ日本語補習校の高校生を乗せてあげようと思ったら、気象予報サイト3か所が強風を予報していたのでキャンセルにしてみたら、次の日穏やかな飛行日和になったことがあったので、朝まで決定を遅らせることにする。

そして、当日朝、離陸地点ビーバー空港の雨の予報は晴れに変わり、目的地の風は22012に変わった。行ける!飛ぶことにする。

10時30分にカーネギー・メロン大で、ビール部員の友達をピックアップ。我が妻が日本語を教えているチャタム大学に向かう。日食があるから学生が出て来てなくて早く終わらないかな?という読みははずれて、我が妻はきちんと10時50分まで授業をやって出てきた。そこから平均54分で空港に着くはずだったのだが、途中で大渋滞。どうも北のイーリーを目指す車が詰まってしまっているようだ。ビール部員の友達がその場でGoogle Mapで調べてくれて、下道の方が早いとのこと。途中でフリーウェイから脱出して下道を走って、30分遅れの12時20分にビーバー空港着。

大急ぎで飛行前点検する。エンジンをかけたのは12時40分ごろになった。管制塔の声は、フライングクラブの友達だった。ラッキー!計器飛行フライトプランのクリアランスが待たされるのではないか、という不安はまったく杞憂に終わり、すぐクリアランスをもらった。「I'll send you great pictures of the Solar Eclipse!」と無線で告げて12時50分離陸。このままでは到着が14時20分になる。1分でも2分でも取り返したい。と、思ったのだが、なぜかピッツバーグアプローチコントローラからの指示は、3000ftまで滑走路のヘディング(目的地と正反対)で上昇して、その後目的地に向かえとのこと。3人乗っててカメラも積んでるから重くてなかなか上がらない。やっと3000ft到達して、目的地に機首を向ける。


Findlayへ!

不運にも向かい風が強くてなかなか進まない。対地速度は100kt~110ktの間だった。ピッツバーグアプローチからクリーブランドアプローチにハンドオフされて、Findlayが近づいてくる。

別の友達も見に行くとのことだったので、Akron付近を勧めておいた。この写真は、Akron上空で撮った太陽。オハイオ州全体的に高層の薄い雲がかかっているのだが、それを突き通して太陽は見えている。後から聞いた話では、Akronでも皆既日食は見れたとのこと。


Akron上空

Findlayは管制塔の無い空港だ。パイロット同士がお互い自分の位置を通報しあいながら離着陸する。我がセスナ、N37MTがFindlayに接近したとき合計3~4機ほど着陸に向けて接近してきていた。最近はADS-Bレシーバというのを使うとどこに他の飛行機がいるか見ることができる。が、ときどき拾い損ねるやつがあるから目視確認は重要だ。どうやら自分の前には1機、パイパー・チェロキーが着陸するところだった。その機体は見えた。が、もう一機「5 miles final, straight-in, following Cherokee.」と言っているパイロットがいる。だとすれば、チェロキーの後方にもう一機いるはずだ。しかし、ADS-Bはチェロキー後方に何も表示しない。本当にいるのか、実はいないのか? 目を皿にして探すが見えない。そのうち、仕方ないんで「Is anyone on final now?」と無線で聞いたら誰も返事がない。どうやら、「5 miles final」と言ってたパイロットは誤った位置を通報していたらしい。これだから経験値の低いパイロットは。(* もちろん自分も以前は経験値の低いパイロットな時期があった。)自分の前には誰もいない。ベース、ファイナルとターンして、右からやや強い横風を受けながら難なく滑走路に滑り込む。Findlayの風は260 at 10kt。右ほぼ真横から10kt。ただ、10ktよりやや強い風な気がしたが、余裕だった。

着陸すると飛行機を誘導してくれて「Do you need fuel?」と無線で聞かれたので「Negative, Sir!」と答えたのだが、発音が悪かったらしくなぜか燃料補給する方に誘導される。降りたら既に半径分ぐらい太陽は欠けている。仕方ないので6ガロンだけ燃料入れてもらって、大急ぎで本来の駐機場所まで向かう。

機体を停めて、14時40分。皆既日食30分前。間に合った。


セスナ172と皆既日食前の太陽。

今回撮影のために、事前に周到に準備しておいた。アストロアーツなるサイトに詳細なカメラ設定情報が掲載されている。ここでは三脚を使うようにと書いてあるが、飛行機だった都合で大きな三脚は持ってこれなかった。だが、我がOlympus OM-D E-M1Xには強力な手振れ補正機能がある。月を撮影したときは、35mmフィルム換算800mmの超望遠で1秒を超えるシャッタースピードでもブレなかった実績がある。1/60なら余裕だろう。カメラの手振れ補正に賭ける!

また、アストロアーツなるサイトでは、あらかじめフォーカスを合わせて固定しておく(プリフォーカス)ことを勧めている。もちろん可能だが、マニュアルモードにしている間にちょっとずつフォーカスが動いてしまうことがある。設定をいろいろ変えながら、前半マニュアルフォーカス、前ピン、後半はオートに切り替えて撮ることにする。あらかじめオートフォーカスしておくためには、日食の前にフォーカスする必要があるので、マグネット式のフィルタ着脱リングにND100000フィルタを装着しておく。露出ブラケットは7段階+-0.7ステップで設定。

そして、これが、プリフォーカスのためにND100000フィルタで撮った太陽。


太陽はどんどん欠けていく。

ダイヤモンドリングの瞬間を撮るためにNDフィルタをはずす。撮れた!が、残念ながらちょっとゴーストが出た。ゴーストとは、レンズやカメラボディ内で光が反射することによって発生するイメージのことだ。


ISO-400, F/9, 1/1000sec, 400mm(2x crop factor)

だが、その後のイメージには驚愕。プロミネンスがはっきり見える!NHKスペシャル、銀河宇宙オデッセイの表紙みたいだ!


ISO-800, F/9, 1/1600sec, 400mm(2x crop factor)

ISO-800, F/9, 1/1000sec, 400mm(2x crop factor)

しかも、コロナの写真も綺麗に撮れた!


ISO-800, F/9, 1/100sec, 400mm(2x crop factor)

ISO-800, F/9, 1/320sec, 400mm(2x crop factor)

なお、コロナをもう少し広い範囲で撮った写真がなぜかにじんでしまって、何故だろうと思ったのだが、考えてみたら太陽の手前に薄雲がかかっていた。コロナの光が薄雲を照らしてにじみが発生したものと思われる。まあ、ここまで撮れれば贅沢は言えない。



ISO-800, F/9, 1/20sec, 400mm(2x crop factor)
にじみの原因は薄雲だったか。

なお、果敢に手持ちハイダイナミックレンジ撮影もトライしたのだが、これはさすがに失敗。太陽が歪んじゃった。

当初、カメラの設定をいろいろ変えながら撮るつもりだったのだが、最初の数枚で「これで良くね?」となってしまったので、以後は見て楽しむことにする。カメラを構えるときは両目を開けるのが基本だ、と、高校のとき写真部の友達が教えてくれた。自分の左目はいつも実物を見ることができる。でも、右目はファインダー越しのことが多いので、たまには実物を見せてあげる。

今回、歴史上はじめて一般向けに発売されたデジカメ、QV-10を持ってきた。QV-10で皆既日食を撮る!というテーマを課してみた。撮ってみたら、案外撮れるもんだね。こんな写真になった。QV-10で他に皆既日食を撮った人がいただろうか?史上最初で最後になるんじゃなかろうか。



QV-10


QV-10による日食

デジタルカメラの進歩はすごい。↑だったのが、今は↓だ。


僕は、被写体はカメラに与えるエサだと思っている。良いエサを食わせたカメラは経験値が増えてより良い写真が撮れるようになる。だから、このOlympus O-MD E-M1Xはこれにより経験値が劇的に向上したに違いない。ん?ということはこのQV-10の経験値も上がってデジタル一眼にレベルアップしたらどうしよう。。。。(注: 現実に起きているのは写真を撮る方の経験値が上がっている。)


我がセスナと皆既日食

なお、オートフォーカスはプリフォーカスした方が成功だった。オートフォーカスに切り替えてフォーカスしなおしたものは1倍に拡大すると微妙にフォーカスがはずれていた。20インチモニタの大きさぐらいならぜんぜん気にならないレベルだけど。シャッタースピード等については、薄雲がかかっていたので、ややフィルタがかかってしまった状態になって、快晴状態だとこれよりもやや明るく出るかもしれない。

そして、ふと気が付くと、周りは完全に暗くなってなくて薄暗いことに気が付いた。当初、皆既日食になると真夜中のよに真っ暗になるかと思ったら、真っ暗になる寸前ぐらいの明るさがある。これはどういうことか、とふと目を地平線方向にやると、なんと、遠くは夕方のような明るさになっている。これは撮っとかなきゃ、と、思ってiPhoneを出してシャッターを押した瞬間!ちょうど皆既日食が終わってダイヤモンドリングになった!この写真はダイヤモンドリングのはずだったのだが、iPhoneだとはっきりわからない。ただ、太陽中央付近が暗いことだけはわかると思う。皆既日食のあいだ中、何も見えないほどの暗さになることは無かった。

美しい光景だった。行く前はしぶっていた我が妻もこの光景を目にすると感動していたようだ。コロナがゆらゆら揺れて見えたのは、おそらく本当に揺れていたのではなく、前を通過する雲の影響だったのではないかと思うのだが、それがまた幻想的な雰囲気を作り出していた。

これまでナイアガラの上を飛んだ時も感動したし、ゴールデンゲートブリッジの上も感動的な光景だった。オアフ島の周りの海もこれ以上ない美しい光景だった。だが、おそらく今回のフライトが最も印象に残ったフライトだったと思う。操縦士免許持っててよかった。

帰路。皆既日食が終わったらぼちぼちみんな帰り始めた。思ったほど飛行機が多くなくて、16時ごろまで待ってエンジンを始動したらほとんど待ち時間無く離陸できた。


Findlay空港

Findlay空港がセスナを受け入れてくれて本当に良かった。いい空港だった。ありがとうFindlay空港。

しかし、帰りの管制官は大忙し。ほとんどひっきりなしに誰かと交信していた。僕がピッツバーグに近づくころになるとはっきりわかるぐらい声が疲れてて、日食後一気にワークロードが増えたものと思われる。自分もその一人だたったわけだが。昔は無線はぜんぜん余裕が無くて必要なこと聞いて言うだけで精一杯だったけど、最近はハンドオフのときには、「Thank you very much! Have a good day!」と言うようにしている。管制官には感謝しかない。

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